物語 すずをならすのはだれ


さむい2月のこと、白い森の中をかぜぐすりの材料を買いに行く途中のうさぎが通りかかった。
いそいでいたうさぎがすべってころぶとうさぎの前には一軒の家が建っていた。
うさぎが扉についているすずを鳴らすと中からきれいな優しい声が「だれ」とたずねた。
うさぎが暖をとりたいと言うと中の声は変わりに歌を歌ってくれれば快く受け入れるといった。
うさぎは喜んでその家の中へ入ったが、それっきり何日も出てこなかった。

同じようにお腹をすかせた子タヌキや道に迷った子ねずみなどたくさんの動物がこの家の扉をたたき、
歌を歌うことを頼まれ、中に入ったきり出てこなかった。
家の中からは動物たちの歌う声だけが聞こえてくるだけだった。
実はこの娘は春の精で、冬を越している植物の種たちを動物達の歌で励ましているのだった。
そして、この冬最後の雪がやむと緑のそりを緑の馬にひかせた緑色の服をきた人がこの家を訪れた。
この人は春一番の風でポケットから一匹のうぐいすを離した。
このうぐいすが50曲を歌うと雪が解け始め、いっせいに若葉が顔を出し始めた。
それから、緑の服を着た人達が次々にやってきて扉のすずを鳴らすとどんどん森は緑に覆われていった。
最後にたくさんのすずらんの花が咲いた。
すずらんの花がチリチリと優しい音を奏でるのを、動物達が出ていって一人になった春の精は聞いているのだった。