物語 とげ


ひさえは、旅館のお客の子どもの京ちゃんと砂浜で遊んでいた。
そこへ、旅館の子どものさっちゃんが浮き輪を持ってきて海に入ろうと
誘ってきた。ひさえと京ちゃんはカナヅチだったが、ちょっとだけならと
思って浮き輪につかまり海へ入ってしまった。

海は少し荒れていて、だんだん波が高くなってきて、とうとう大きな波に
3人は飲まれてしまった。
気が付くとひさえとさっちゃんは浮き輪につかまっていたが京ちゃんの姿は
なかった。
助けられたひさえは急いで家へ帰ってきた。そこへ海の事故を聞いた母親が
帰ってきて、ひさえの無事を喜んだ、「ひさえじゃなくてよかった」という
母親の言葉にひさえ自身も自分が助かったことでほっとしていた。

しかしその晩、ひさえは自分だけが生き残っていて他の人たちがすべて死んで
しまった世界の夢を見た。そして翌日、海に出ようと言い出したのがひさえだと
言ってきた旅館のおばさんの発言に対して、言い出したのはさっちゃんだと
大声で言ったのだった。
この6歳の夏の思い出は、ひさえの心にとげのように残った。